初めてお城に来た時、僕のお世話をしてくれた仔虎
まだ小さいのに、手際よく僕のお風呂を手伝ってくれた
よく躾けられたしっかり者
それが、仔虎に対する僕の第一印象
けれど、僕の横に座ってミルクを飲む姿を見ると、やはりまだ子供だ
「ふふっ、お口の端が白くなってるよ」
「ありがとうございます、チャンミン様」
口の端にミルクが付いて、白いお髭を生やした仔虎
拭ってあげると、無邪気な笑顔が返ってきた
・・・・可愛いな
今まで、子供と接したことはなかった
僕は、バンビの仲間とは違う容姿をしていたから・・・
子供達は怖がって、僕に近付こうとさえしなかったから
「俺は、いつもこの窓辺に立って、チャンミンの事を想っていた」
バンビの群れから、このお城までの距離は、意外と距離があったみたいで
疲れてしまった僕は、軽めの食事を頂いて・・・
ようやくユンホ様と二人きり
窓辺に立つユンホ様は、僕を抱き寄せて
暗くなった外を見つめながら、ゆっくりと言葉を繋ぐ
「いつもお前の事だけを考えていた・・・
あの日、・・・バンビの群れに帰したことを後悔しながら・・・」
「・・・ユンホ様、・・・」
「情けないだろう?格好つけて背中を押したのは自分なのに」
皆が憧れる虎族の長
その男が、僕の前では素直に弱音を吐くし
僕の前でだけ・・・虎に姿を変える
僕だけが・・・ユンホ様の特別?
もしそうならば・・・嬉しい
「ユンホ様・・・、離れていた間はとても淋しかったけど・・・
でも、僕は群れに戻って良かったです」
今まで、この容姿のせいで・・・仲間から嫌われていると思っていた
でも、群れに戻った僕を温かく迎えてくれた
無事だったことを喜んでくれた
「・・・そうか」
くしゃりと僕の髪を撫で、優しく微笑むユンホ様
僕は、甘えるようにユンホ様に身を任せ・・・
「・・・此処が、・・・ユンホ様のお傍いることが一番の幸せだと気付きました」
「俺もだ・・・お前が傍にいる事が俺の幸せだ」
再会した夜
僕達は同じベッドで寄り添い、抱き合って眠った
口付けを交わし・・・けれど、それ以上は触れ合う事なく
朝までお互いの体温を分け合って・・・
「やっぱり、この森のどんぐりは美味しいです」
「お前は色気より食い気だな」
翌朝、こっそりお城を抜け出して
籠を持って森へやって来た
あの頃と同じように、夢中でどんぐりを齧る僕を
ユンホ様は逞しい虎の姿で見守る
小腹が満たされると、僕はユンホ様の体にもたれかかって一休み
穏やかで、優しい時間が二人を包む
「チャンミン」
「はい」
僕達の周りを飛んでいた小鳥達が、空高く羽ばたいていく
小鳥の囀りも、だんだん小さく・・・聞こえなくなり、
辺りを包むのは、風に揺れる木々の音だけ
ユンホ様は、真っすぐ僕を見つめて静かに口を開く
「結婚しよう」
-------っ、
「愛している、・・・俺と結婚してくれるか?」
熱い眼差しが僕を捕らえて離さない
僕を番にすると・・・そう言ってくれた言葉は、本当だったの・・・?
僕は・・・弱いバンビなのに
ユンホ様は、僕を選んでくれるの・・・?
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